2月25日(Sun) 食の執念
チンジャオロースなんぞ作ろうと、水煮のたけのこパックをさくさく切っていたら急に
子供の頃の恐怖体験が蘇った。そう、たけのこ。これによりわたくしには驚愕の思い出が
あるのである。
10歳4年生のわたくしはいつものように『なおみちゃん』と『いずみちゃん』と学校のそばで
遊んでいた。日頃は眼中になかった『竹林』があるのだが、ふと見ると「にょ。」と可愛らしい
『たけのこ』が生えている。びっしりと異常発生のごとく。我らの瞳は光輝き、「宝の地を発見!!」
と叫びあった。大量の収穫が見込めるから、何か入れ物を、と一度解散しそれぞれの家から
スーパーのビニール袋を「ばっさばっさ。」とひるがえし再集合した。
そして片っ端からたけのこ達を根っこからぐりぐりともぎ取っていった。
今夜は『ほかほかのたけのこごはん』だ。おかんが喜び、おとんが褒める。なんたる喜びか。
日々、通知表や三者面談等で「成績が気になる。」だの「やる気が見られない。」と言われ続けている
我々が立てられる『手柄』が今、ここにある。今日は一家のスーパーヒーローだ、と3名は狂ったように
抜いた戦利品を袋に詰め込んでいった。
すると突然、背後からおばちゃんのかなきり声が飛び込んできた。
「ちょっとあなた達!!やめて!やめなさーい!!」
なんだろう?すっとぼけた顔で振り返ると声の主のおばちゃんが、人ってこんなに青色になるものなのかい?
というくらい蒼白な顔で口をぱくぱく、慌てふためいている。
で、おばちゃん曰く、ここは近くで農家をやっている人の土地で、入ってはいけないし、生えているものを
取るだなんてもってのほか、だという。
さらに先日、我々同様たけのこに喜びいさんだ高校生の兄ちゃんが収穫中に『農家のオヤジ』に見つかり、
くわで追い回され捕まり血まみれの半殺し状態 になったというのだ。
あまりの恐ろしさに我らは持っていた『宝袋』を「どさ。」と落とした。
まずい。まずすぎる。置いて帰ろう。それでいい。
と思った時である。なおみちゃんが一目散に逃げた。たけのこを抱えて。おばちゃんは「あっ。」と言ったのだが動けず残されたわたくしといずみちゃんをターゲットに
「私一緒に謝りに行ってあげるから!とにかく恐いオジさんだから!さあ!さあ!!」
ちょっと待て、ばばあ。
本当に我々の身を案じてくれるのならば、ただちに逃がしてくれよ。今(強)
『主』に見つかっていないのである。今ならもれなく。
だって、高校生の身体で半殺しだったら、うちらの小さな身体は完全に死に至る。
おしっこ漏らさんばかり、足はがくがくぶるぶるで引きずられるように近くのご立派な家に連行された。
縁側でお日様の光を浴びながらガン黒の『仁王』みたいなおっさんが両足を広げて静かに座っている。
ばばあが「この子達がこれこれしかじか・・・。」と話している間、超低音で「うむ・・。うむ・・。」と
うなづくオヤジ。
「さ、ごめんなさいって、ほらっ。」促がされた。
「ごめんなささささ・・・。」まともな謝罪は不可能である。だって今まさに殺されようとしているのだから。
するとあっさり「今回は良い。もうやるな。」と執行猶予の判決が下された。
救われた我々はグッタリしながら自宅にたどり着き、翌日逃亡者なおみちゃんをトイレに
呼び出し、「やいやい、どういうつもりか。こっちは殺されそうだったというのに。」と責めに責めた。
泣きながらひたすら謝る彼女だったが、「で、食べたの?たけのこ。」の問いに「家族で美味しく頂いた。」と
抜かした。許せなかった。わたくしだって食べたかった、たけのこ。
食の恨みを引きずったまま誕生日を迎えたわたくしは我が家の『誕生日パーティー』になおみちゃんを
呼ばなかった。「あなたのような人は招待しないので、あしからず。」みたいなことも前もって言ってあった。
大勢で盛り上がるパーティーの真っ最中、家の呼び鈴が鳴った。ドアを開けると独りたたずむなおみちゃんが
いた。「あのね、これ・・・。」可愛らしくラッピングされた包みを差し出している。
仲間はずれにされながらもプレゼントを届けるためにだけ、彼女はチャリンコを走らせたのだった。
受け取りながらいっぱい、いっぱい泣いてしまった。なんてひどいことをしたのだろうと。
そしてごめんよと。
家にあがれ、と言っても「今日は帰るから☆」とかたくなに断るなおみちゃん。
しょうがないので泣いたのがばれぬ様ごしごし目を拭って家の中に戻ったわたくしであった。
それからというもの、わたくしはなおみちゃんを大事にするようになったとさ。
すっぺえ思い出。たかがたけのこ。されどたけのこ。 哀愁。
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